成長の大切な時期だからこそ考えたい
子どもとテレビ じょうずなおつきあい
お話 土谷みち子先生
朝、起きたら、外から帰ったら、すぐにテレビのスイッチをオン。大人にとってはなにげない習慣が、幼い子どもたちの成長に影響を与えるおそれがあるとしたら……。長年、テレビやビデオと子どもの問題について研究を続けている土谷先生に、赤ちゃん時代からのテレビとのじょうずなつきあい方について、お話をうかがいました。
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テレビの見せすぎ、どうして心配?
赤ちゃんは、周りの人たちとたくさんかかわりながら、身体を動かして遊びながら、言葉や情緒や社会性など、生きていく上で大切な能力を獲得していきます。ところが、赤ちゃん時代からテレビやビデオを長時間見る生活を続けていると、その分外遊びの時間も、親子のふれあいや会話も少なくなってしまう。その結果、言葉の発達が遅い、表情が乏しい、友だちとうまくかかわれないなどの問題が生じているのではないかという心配が、小児科の臨床や保育の現場などでふえつつあります。
1才6カ月児を対象とした調査では、テレビが長時間つけっぱなしになっている家庭とそうでない家庭とでは、子どもの言語発達に違いが認められたというデータも出ています。私自身も臨床の現場で、言葉が出ない、表情が乏しいなどの心配をかかえた子どもたちが、長時間テレビを見る生活を改め、身体を使い大人とのコミュニケーションを活発にする遊びを続けると、状態が改善した実例をたくさん見ています。
「言葉の発達によさそうだから」「情操教育のために」とテレビやビデオを長時間見せることは、効果がないばかりか乳幼児期の大切な成長が阻害される危険性があることを知っておいてほしいと思います。
テレビの楽しみ方にわが家のルールを
「赤ちゃんにテレビをどれくらい見せているか」を調べてみると、「まったく見せない」が5%、「12時間以上見せている」が5%と、家庭によってかなりの差があることがわかっています。「テレビがついていないと、なんとなく落ち着かないから」と、1日中テレビをつけている家庭もありますが、特に赤ちゃんに見せているつもりはなくても、つけっぱなしになったテレビが赤ちゃんのそばにあるという状況は問題です。どこの家庭にもある便利なものだからこそ、次のような点に注意して、わが家のルールを守った使い方(見せ方)を心がけましょう。小児科関係者で考えたルールの目安をお知らせします。
・2才以下ならテレビは1日トータル2時間まで
・テレビはつけっぱなしにせず、「見たら消す」を習慣に
・授乳中や食事中はテレビをつけない
・1回15分、30分程度でひとくぎりをめやすに
・できるだけ一人で見せない
テレビを見たら外遊びをたっぷりと
「小さいうちは、テレビはなるべく控えたほうがいい」とわかっていても、現実の生活の中では、「子どもにテレビを見せている間にちょっと家事を」ということもあるでしょう。そんなときは用がすんだら、外に行って親子で遊ぶ、散歩や買い物に行くなどして、身体遊びや人とのかかわりをおぎなうようにすれば大丈夫です。大切なのは、子どもの生活がテレビやビデオばかりに偏らないよう、バーチャルと実体験のバランスをとることです。
家の中でできることとしては、いっしょに料理を作る、ぞうきんがけをするなどのお手伝いもおすすめ。手や身体をたくさん使えますし、親子のかかわりもふえる、将来はお母さんがラクできるというおまけもついてきますから、どうぞたくさんお手伝いをさせてあげてください。
また最近では、親のほうがインターネットやケータイに夢中になって、子どもが声をかけてきても上の空、その結果、子どもと親にかかわりを求めることをあきらめてしまう、というタイプの「かかわり不足」も心配されています。テレビやビデオだけでなく、パソコン、ケータイ、ゲームなど、さまざまなメディアが家庭に普及している時代だからこそ、親自身もメディア漬けにならないよう、気をつけてほしいですね。
(まとめ/編集部)
土谷 みち子
関東学院大学人間環境学部人間発達学科教授。同カウンセリングセンター所長。日本女子大学大学院文学研究科教育学専攻修了。専門は臨床発達心理学、保育学。臨床発達心理士。著書に『家庭援助論』(青鞜社)、『「気になる」からはじめる臨床保育―保育学からの親子支援』(共編著)、『「あたりまえ」が難しい時代の子育て支援』(共著/以上フレーベル館)など多数。
取材・文/中島恵理子