子どもが幸せに生きていく力。
その根っこをスキンシップが育てます。

お話 山口創先生

子どもを抱っこしたり、からだ遊びをしたり。毎日なにげなく行っている親子のスキンシップが、実は子どもの体、心、そして脳の成長にも大きな影響を与えるということをご存知ですか? やさしくたくましく賢い子どもを育てるスキンシップ育児について、専門家の先生にお聞きしました。

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スキンシップってなぜ大切なの?

肌と肌のふれあいが心の基盤をつくります。

親はみんなわが子が幸せな人生を送ってほしいと願うものです。「では、そのために何をすれば?」と聞かれたら、私は「まず、子どもにたっぷりのスキンシップを」と答えます。この世界に生まれてきた子どもは、あたたかく抱っこされることを通して「人間ってやさしいものなんだな」ということを理解します。そして、肌のぬくもりに包まれることで、「自分は愛されているんだ」という心の基盤を作っていきます。

人から愛され、人を愛することができる心は、人生を幸せに生きていく上でかけがえのない宝物。それは、幼少期のあたたかなスキンシップを通じて育まれていくものなのです。

スキンシップは「脳育て」にも効果がありますか?

幼児期のスキンシップは「幸せになる脳」を育てます。

最近は子どもの脳を育てることへの関心が高まっていますが、幼児期くらいまではいわゆる知的教育よりも、皮膚刺激を含めた五感体験を通じて「感じる脳」を育てることが大切です。

最近の研究で、愛情のこもったスキンシップが「オキシトシン」という脳内物質の分泌

を促すことがわかってきました。オキシトシンは別名「愛情ホルモン」「きずなホルモン」と呼ばれるもので、親子の絆を強める、ストレス耐性を高める、気分をリラックスさせる、学習効果を高めるなど、素晴らしい働きをたくさん持っています。また、子ども時代にスキンシップをたっぷりしてもらった子どもの脳は、オキシトシンが分泌しやすいつくりになり、その効果は一生持続すると言われています。

赤ちゃんから幼児期にかけては、脳がめざましく成長する時期です。親子でたっぷりスキンシップをしてオキシトシンがしっかり出る脳を作ることは、子どもの人生への何よりの贈り物になるでしょう。

スキンシップってどんなことをしたらいいの?

スキンシップは量より質。「ちょい抱き」のススメ

「親子のスキンシップが大切」といっても、なにか特別なことをする必要はありません。おんぶや抱っこも立派なスキンシップですし、着替えの時にちょっと背中をさする、おはようやおやすみのときにギュッと抱きしめるなど、生活の中で無理なくできることを実践してみましょう。

「忙しくてなかなか時間が作れない」という場合には、「ちょい抱き」というやり方がおすすめです。「ちょい抱き」とは、1時間に1回程度、10分くらい子どもをしっかりと抱っこして、目と目を合わせながら心からのコミュニケーションを取る方法です。短時間でもしっかりと自分だけを見つめて抱っこしてもらえば、子どもは「自分を受け入れてもらった」と満足して心も安定します。

いつまでも抱っこばかりで甘えっ子にならない?

個人差も大きいもの。できるだけ欲求にこたえてあげて。

スキンシップを求める度合いは個人差があるので、少しの抱っこで満足する子もいれば、いっぱい抱っこされたい子もいます。「抱っこされたい」というのはごく自然な欲求ですし、「たっぷりスキンシップされた子どもの方が、将来自立しやすい」というデータもあるので、心配しないでできるだけ求めに応じてあげてほしいですね。

スキンシップのスタイルについても、べたっと密着するのが好きな子も入れば、くすぐり遊びのようなふれあいを喜ぶ子もいるので、子どもの反応を見ながらその子が好きなスキンシップを工夫してあげましょう。

ちなみに、お母さんのスキンシップは子どもの情緒を安定させる働きがあるのに対して、お父さんのスキンシップは子どもの社会性を育てる働きがあることがわかっています。子どもと密にスキンシップできるのは、あとから振り返れば本当に数年間だけのこと。あっという間に大事な時期は過ぎてしまうので、お母さん、お父さんそれぞれがわが子とたくさんスキンシップを楽しんでほしいなと思います。

山口創(やまぐち はじめ)

1967年生まれ静岡県出身。桜美林大学リベラルアーツ学群准教授。臨床発達心理士。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。「子どもの『脳』は肌にある」(光文社新書)、「愛撫・人の心に触れる力」(日本放送出版協会)ほか著書多数。家庭では10歳、5歳の女の子のお父さんでもある。

取材・文/中島恵理子