便利だからこそ使い方には気をつけたい
スマホと育児

お話 内海裕美先生

0~6才の乳幼児を持つ母親の約6割がスマートフォン(スマホ)を所持。そのうちの2割の家庭では日常的に子どもがスマホに接しているといわれます。「子どもがぐずったとき、家事で手が離せないときには助かる」という声がある一方で、発達への影響や将来の依存を心配する声も。いまやいちばん身近なデジタルメディアであるスマホとのつきあい方について、小児科医の内海裕美先生に伺いました。

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スマホで子守、どうしてダメ?

便利だからこそ、頼りすぎない工夫を

子育て中のお母さんたちから「スマホは便利」という声をよく聞きます。でも、誰にとって便利なのか。そこを考えることは必要ですね。

たとえば、電車の中や病院の待合室などで、子どもがスマホを見ておとなしくしていてくれれば、親は確かに助かるかもしれません。でも、しつけのかわりにスマホを与えて静かにさせるというのは、一時しのぎにはなっても、本当の意味で子どもの「自分をコントロールする力」をはぐくむことにはつながりません。幼児向きのアプリはえんえんと遊び続けられるようにできているので、頼りすぎれば親子のかかわりが減ることにもつながります。

あるお母さんは「スマホがあると工夫をしなくなりますね」と話してくれましたが、便利だからこその落とし穴があるという意識は常に持っておきたいもの。たとえば外出時には小型絵本を用意したり、あやとりや折り紙など静かに遊べる道具を持参するなど、ちょっとした工夫でスマホに頼らない育児はできるはずです。

早くから慣れたほうがいい?

バーチャルよりも直接体験。いま大事なことを優先して

成長の土台となる幼児期には、体を使ってたくさん遊び、いろいろな人とかかわり、自然や生き物に触れるといったリアルな体験をたくさんすることが、なによりも大切です。

たとえば、紙の絵本には、めくるときに指先を使う、紙の手触りを感じる、本の重さを感じるなど、さまざまな五感体験がついてきますが、デジタル絵本は指先を動かすだけでページがどんどんめくれてしまいます。スマホの画面上で積み木を積むのと、実際の積み木を手で積むのと、どちらが子どもの発達にとって豊かな体験か?ということです。お手軽な刺激で楽しむ習慣がついてしまうと、汗をかいて遊ぶことや自分で工夫して遊ぶことを「めんどくさい」と避ける子どもになるおそれもあります。

親はみんなわが子に「できるだけ豊かな体験をさせたい」と思っているはずです。では、スマホやタブレットの中にある遊びは、はたして子どもにとって豊かといえるでしょうか?

私自身は、少なくとも赤ちゃんや幼児期にデジタルデビューを急ぐ必要はまったくないという意見です。「流行っている」「みんなが始めている」といった情報に、気持ちがゆれることもあるかもしれません。そんなときは、まず「わが子にとって、いま大切なことは何か?」というところに立ち戻って考えてみてほしいと思います。

ルールを決めて使えばOK?

まず、親自身がけじめのある使い方のお手本に

幼児とスマホに関して、「ルールを決めて適切に使えば問題ない」といわれますが、それがたやすいことではないのは、すでに小中学生のゲーム漬けやネット依存が社会問題化していることを見ても明らかです。現実に、「もっと遊びたい」とだだをこねる幼児をコントロールできずに、15分が30分、1時間と時間が伸びて困るという訴えをよく聞きます。

また、最近では「親がスマホに見入っていて、赤ちゃんがベッドから落ちた」「親がスマホに夢中で、子どもの呼びかけにも知らん顔」など、親自身がスマホ漬けというケースも少なくありません。テレビやパソコンよりもさらに小さい画面に見入ることで、視野が狭くなり、その結果子どもに目配りができない事態が起きているのです。

子どものスマホ漬けを防ぎたいのであれば、まずは親自身がけじめのある使い方を心がける必要があります。もし、親はスマホを所持しているけれど、子どもにはふれさせたくないという場合は、たとえば子どもが起きている間は(電話以外には)使わない、「これは大人のものですよ」ときちんと宣言して子どもにはさわらせないなどのルールを設けるといいでしょう。

内海裕美 Hiromi Utsumi

医学博士。日本小児科学会認定医。日本小児科医会常任理事(「子どもの心」対策部担当)東京女子医科大学医学部卒、同大学小児科学教室入局。1997年より吉村小児科(東京・文京区)院長として、地域の子どもたちの体と心の育ちを見守り続けている。「お母さんたちには子育てを楽しんでほしい。スマホ頼みの育児は、楽しんでいるわけではなく省いているだけ。それはもったいないことですよ、ということに気づいてほしいですね」

取材・文/中島恵理子