思いやりの気持ち、どう育てる?

人の気持ちがわかる子に育ってほしい!

お話 永瀬春美先生

わが子には、人の気持ちがわかる思いやりのある子に育ってほしい。そのために親ができることって? お友だちとのトラブルもふえる幼児期、親の上手なかかわり方も含めて専門家の先生にアドバイスしていただきました。

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そもそも、「人の気持ちがわかる」って、どういうこと?

まずは「自分の気持ちに気づくこと」がスタートです

生まれて間もない赤ちゃんの感情は漠然とした快・不快だけなのですが、ニッコリ笑ったら「うれしいのね」、おむつを替えてもらったら「気持ちいいね」など、自分の周りにいる人たちの声がけを通じて、「自分の中にはいろいろな気持ちがあるんだ」ということを少しずつ理解していきます。

そして、自分が感じた気持ちを周りの大人に受け止めてもらい、言葉で表現してもらうという経験を積み重ねるうちに、お友だちの表情やしぐさを見た時に、「自分がこの前感じた、あの気持ちと同じことが、あの子の中で起こっているらしいぞ」ということが、おぼろげながらわかるようになります。ここまで来るのに、およそ3年はかかるでしょうか。1歳や2歳では、まだまだ人の気持ちなんてわからなくて当たり前というわけです。

私たちが相手の気持ちを察するときには、自分の気持ちに照らし合わせて推測しています。ですから、まずはうれしい思いもくやしい思いもいっぱいさせて、その感情が受け止められ、共感してもらう感情体験のストックをたくさんふやしてあげること。これが人の気持ちを察する力につながっていくのです。

思いやりのある子に育てるために、親ができることって?

子どもにやさしさの貯金をいっぱい作ってあげましょう

思いやりとは文字通り、「誰かに思いをやる(あげる)こと」。でも、昔から「ない袖は振れない=持っていないお金は出しようがない」といわれるように、自分がもらっていない(だから、まだ持っていない)ものを、人にあげることはできません。わが子に「友だちの気持ちを思いやれる子に」と望むなら、まずお母さんやお父さんがわが子の気持ちを思いやり、「気持ちをあたたかく受け止めてもらううれしさ」をたくさん体験させてあげましょう。

といっても、なにか特別なことをしなければならないわけではありません。たとえば、子どもが寒いなと感じているときには「寒いねー」、ころんでべそをかいているときには「痛かったね」と、子どもの気持ちを察して言葉にして伝えてあげる。そんななにげないかかわりの積み重ねが、子どもの心の中にやさしさの貯金をふやします。

子どもは大人の「言うこと」は聞かないけれど、「すること」はしっかりまねるもの。言葉で言い聞かせるよりも、親が日常の中で人を思いやったり、やさしくしたりする姿を見せてあげるほうがずっと効果があるものです。

こんなときどうする? お友だちとのありがちトラブル

シーン1

おもちゃを取ろうとした友だちをたたいちゃった!

こんなときは、「取られるかと思ってびっくりしたね」とわが子の気持ちは受け止めつつ、「でも、たたいたら痛いよ、ダメだよ」と、行動についてはきっぱり「NO」と教えましょう。貸したくない「気持ち」は否定せず、でもいけない「行動」には制限を加える。これがしつけの基本ルールです。

ありがちなのが、「貸してあげればいいじゃない」とお母さんが介入して、一方的にわが子にがまんを強いるパターン。お母さんはお友だちにやさしくするお手本を見せているつもりでも、子どもの心は「自分の気持ちをわかってもらえない悲しみやくやしさ」でいっぱいに。「人の気持ちがわかる子に」と願いながら、実はお母さん自身がわが子の気持ちを無視して思いやりのないふるまいをしていることに気づいてくださいね。

シーン2

使ってないおもちゃなのに「貸してあげない!」

使っていなくたって、これは自分の大事なおもちゃだから、「ダメー!」。こんなときは「いま、貸したくないんだね。じゃ、あとで貸してもよくなったら教えてね」と声をかけると、気持ちをわかってもらえた安心感から、案外すぐに「いいよ」と貸してくれることもあります。お友だちには、「ごめんね。いまはダメなんだって。ちょっとだけ待ってくれる?」とお願いしてみましょうか。

いつか大人が介入しなくても、子ども自身が自分の気持ちに折り合いをつけて、ホンモノの「貸して」「いいよ」が言える日がきっときます。それまで根気よく見守ってあげたいですね。

永瀬春美 (ながせ・はるみ)

1951年東京都生まれ。千葉大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程卒業、東京学芸大学大学院修了。大学・専門学校での教育に携わるほか、電話相談員、スクールカウンセラーなどを経て、NPO法人子育てひろば ほわほわ内「子育て相談室いっぽ、いっぽ」主宰。JACC認定心理カウンセラー。「子育ては理想通りに行かないほうが多いもの。うまくできない自分を思いやり、自分にやさしくなることが、やさしい子を育てるコツです」

取材・文/中島恵理子