ちょっと心配?

イマドキの子どものからだ

お話 野井真吾先生

本来なら元気いっぱいの年ごろなのに、「すぐに疲れたという」「朝からゴロゴロ」「姿勢が悪い」など、少し心配な様子の子どもがふえているとか。その原因は? 親が気をつけたいことは? 子どものからだの変化について長年研究をつづけている野井真吾先生にお話をうかがいました。

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日本の子どものからだに何が起こっているの?

病気ではないけれど調子が悪い。その背景に自律神経の発達不全が

「いまの子どもたちは昔に比べて体力がない」というイメージがありますが、「体力・運動能力調査」の数値を比べてみると、実は昔もいまもそれほど成績に差は見られません。にもかかわらず、「平熱が36℃未満(低体温傾向)」「朝起きられない」「午前中だるい」など、‶なんとなく調子が悪い‶と訴える子どもは、近年確かにふえてきています。その背景には、自律神経に代表される「神経系の発達不全と不調」がある、と私は考えています。

たとえば、私たちが暑いときには汗をかくのは、自律神経が体内の熱を放出して熱中症にならないようにコントロールしている証拠です。自律神経はからだの調子を整えるためにさまざまな役割を担っているので、その発達に不具合があったり、不調があったりすると当然影響が出てきます。

自律神経は本来、からだが「寒い」「暑い」「ドキドキハラハラする」など、いわば緊急事態に置かれたときに作動するものです。生活がどんどん安心・安全で快適になったことで、子どもの自律神経がうまく機能しない状況が生まれてしまっているといえるでしょう。

前頭葉の発達も遅れぎみ。集中力ややる気への影響も

子どものからだに関するもう一つの心配は、大脳前頭葉の発達不全です。そもそも前頭葉のタイプは、興奮(アクセル)も抑制(ブレーキ)も弱い「そわそわ型」(幼児型)からスタートして、意欲の元となる興奮(アクセル)が強い「興奮型」の時期を経て、次第に抑制力(ブレーキ)も育ってバランスのよい「活発型」(大人型)へと段階的に発達していくものです。ところが、最近は小学校高学年や中学生になっても前頭葉が「そわそわ型」、つまり心が幼い状態の子どもが昔に比べてふえています。

前頭葉は心をつかさどる場所であり、集中力や意欲とも深い関係があります。授業に集中できない子どもや「すぐに疲れた」という子どもがふえたという背景には、子どもが生まれて育つ過程で、前頭葉の発達に不可欠な「子どもが子どもらしくのびのびと遊んだり、好きなことに夢中になって取り組める時間」が不足しているためではないかと心配されます。

できることから始めてみよう
元気なからだと心のための提案

自律神経を整える、「光・暗闇・外遊び」のススメ

自律神経問題の解決には、「太陽が昇って明るくなったら外に出て活動し、暗くなったら眠って休む」という、動物(ヒト)としての当たり前にできるだけ近い生活をすることが有効です。まずは昼間は1日1回は外に出て太陽の光を浴びる、夜は部屋の照明を明るすぎないように工夫する、寝る前はスマホやテレビなどのスクリーンを見るのは控える、朝自然に目がさめるようカーテンはきっちり閉めないなど、できそうなことから一つずつ実践してみましょう。

「冬でも冷たい水で顔を洗う」「エレベーターではなく階段を使う」など、「これは自律神経のエクササイズにいいかな?」と考えながら、親子で便利すぎる生活を見直してみるのも楽しいかもしれませんね。

興奮は成長の元! 「ワクワクドキドキ」のススメ

幼児期の前頭葉に必要なのは、まず「思いきり興奮すること=ワクワクドキドキ体験」です。「興奮する」とか「はしゃぐ」というと悪いことのように思われがちですが、そもそも子どもが子どもらしくやんちゃするのは自然な発達欲求です。しっかりと「興奮(アクセル)」を育てれば、それに見合った「抑制(ブレーキ)」も育つ。これは「キレない子」を育てることにもつながります。

「ワクワクドキドキ体験」はかならずしもからだ遊びに限りませんが、幼児の場合は思いきりからだを動かして遊ぶのがいちばん簡単で効果的です。特に、おにごっこやかくれんぼ、追いかけっこなど昔ながらの伝承遊びは、夢中になってじゃれ合いながら思いきりからだを動かすことができる、最高のワクドキ体験です。

家の中で手軽にできるじゃれつき遊びとしては、くすぐりっこもおすすめです。親子のスキンシップにもなるので、ぜひ気軽に楽しんでみてください。

野井真吾(のい・しんご)

日本体育大学教授。子どものからだと心・連絡会議議長。1968年東京生まれ。日本体育大学大学院修了。体育科学博士。専門領域は、学校保健学、教育生理学、発育発達学、体育学。『新版 からだの‶おかしさ”を科学する』(かもがわ出版)ほか、子どものからだ・心に関する著書多数。

“子育ては「いいかげん」では困るけれど、頑張り過ぎも禁物です。子どもにも親にも無理のない「よい加減」の生活を目指しましょう”

取材・文/中島恵理子