世界が注目! 人生を豊かに生きる力とは?

幼児期からの「非認知能力」の育て方

お話/東京大学名誉教授 汐見稔幸先生

「人生で成功するためにも大事な力」として注目されている「非認知能力」。「その育ちは乳幼児期から」と聞くと気になりますよね。そもそも非認知能力とは? 育て方は? 育児誌や子育て番組でもおなじみの汐見先生にやさしく解説していただきます。

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非認知能力って何ですか?

非認知能力とは、未来を生きるために必要な「ほんとうのかしこさ」

みなさんは「かしこい子」ってどんな子どもだと思いますか? かつては「学校の勉強ができる=かしこい」というとらえ方が一般的でしたよね。でも、時代がどんどん変化する中で、「これからの社会で活躍するには、テストの成績だけでははかれない、別のかしこさも必要だ」ということがわかってきました。

そのかしこさとは簡単に言うと、「実社会に出たときに、その場その場で上手に対応できる力」のこと。たとえば、困難に直面しても粘り強く頑張る力、失敗しても前向きに立ち直る力、いろいろな人とうまくかかわる力、集団をまとめるリーダーシップ力、気持ちをコントロールできる力など、いわば人生をポジティブに生きていくために必要な力のいろいろ、それらをまとめて「非認知能力」と呼んでいます。

学力(認知能力)ももちろん大切ですが、予測不能な未来を生きるには「どんな状況になっても、なんとかやりくりしていける力=非認知能力」も大切。そんなこともちょっと意識しながら子育てをする時代になりましたよ、ということをまずは知ってほしいと思います。

認知能力と非認知能力

  • 認知能力…文字が書ける、読める、計算ができるなど目に見える能力。IQ(知能指数)に代表されるような数値化できる能力。
  • 非認知能力…認知能力以外の力を広く示す言葉。生きていくために必要な忍耐力、社会性、自信・楽観性などを中心とした「ポジティブに生きるために必要な能力」。

非認知能力ってどうやったら育つの?

子どもの非認知能力は「遊び」の中で育ちます

非認知能力は、子ども自身が「やりたい!」と思うことに夢中で取り組む中で育ちます。幼児期であれば、とにかく思い切り遊ばせてあげるのがいちばんです。

子どもが「やりたいこと」って、親が期待するのと全然違うことが多いですよね。石ばっかり集めてくるとか、虫ばっかり探しているとか。でも、それでいいんです。親はそういう子どもの姿を「いいね、いいね」と見守りながら、応援してあげましょう。

人間って好きなことには一生懸命になれるし、もっとやってみようと意欲が出るもの。うまくいかなくても、「どうしたらうまくいくかな?」と子どもなりに考えて、工夫したり、調べたり、人に聞いたり、誰かと協力したりしながら試行錯誤を上手にしていきます。こうした経験の中で、将来の非認知能力の基礎となるさまざまな力が育まれていくのです。

親ができることは?

主役は子ども。親は上手に見守りながら応援を

よほど危ないことは別として「そんな遊びやめなさい」は禁句。できるだけ子どもの「やりたい」を尊重してあげましょう。

子どもがいろいろ模索しているときは、親はヒントを言い過ぎないで、子どもが上手に失敗するのを応援してあげたいもの。「できなーい」と言う子どもには、「うまくいかないの? どうしてだろうね?」など、子どもが前向きに試行錯誤を続けられるような働きかけができるといいですね。

子どもが夢中で遊んでいるときは、少し離れたところから、「楽しそうに遊んでいるわ」と見守っていてあげましょう。親が自分のやっていることを肯定的に見守ってくれているとわかると、子どもは安心してやりたいことに没頭できます。

非認知能力は生きる力

「生きるっていいよね」と心から思える人に

たっぷり本気で遊んだ子どもは、ちょっとめんどうなことでも遊びに変えてしまう力が身についています。大きくなって試験勉強をするときにも、「やらなければならないから」とイヤイヤやるのではなく、「どうやったら試験勉強が面白くなるかな?」と考えて、自分に合った勉強法を工夫して頑張れます。「やらねばならない」を「やりたい」に変えられるというのは非認知能力の最たるもの。こういう子どもはやる気も持続するし、学力も伸びます。

この先どんな社会になっても、子どもたちには「やっぱり生きるっていいな」と心の深いところで思える人になってほしいもの。そのためにも幼児期の今から少しずつ、人生をかしこく生きる力を伸ばしていってほしいなと思います。

汐見稔幸 Toshiyuki Shiomi

一般社団法人家族・保育デザイン研究所代表理事。東京大学名誉教授・白梅学園大学名誉学長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。自身も 3 人の子どもの育児を経験。NHK E-テレ「すくすく子育て」出演、保育者による交流雑誌『エデュカーレ』編集長、保育者のための学びの場「ぐうたら村」村長も務める。著書に、『エール イヤイヤ期のママへ』2021 年(主婦の友社)、『汐見稔幸 こども・保育・人間』2018 年(学研)ほか多数。